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手製版  空白を埋める

空白を埋める 1・2・3 手製版

◉手製「空白を埋める」通常版

本体税込3300円+日本全国送料一律300円

限定50セット(残数わずか)

手製「空白を埋める」サイアノ版(サイアノタイプのオリジナルプリント付き)

サイアノタイププリントサイズ:12.3cm x 8.3cm

本体税込8800円+日本全国送料一律300円

限定30セット                   サイアノタイプ詳細についてこちら

2021年10月1日発行

発行・文・写真 小原一真

デザイン 矢部綾子(kidd)

 

協力

吉川陽子

平野謙一

 

助成 

National geographic Society 

COVID-19 EMERGENCY FUND FOR JOURNALISTS

制限区域の先にあるもの。​

数値の先にあるもの。

 冊子「空白を埋める1・2・3」には、コロナ病棟で看取りを行なった看護師の言葉、感染症で家族を亡くしたご遺族の経験がプロセスレコードという記録方法と聞き取りによって記録されています。

 一九五〇年代にアメリカの看護師、ヒルデガルド・ペプロウによって提唱されたプロセス・レコードは、看護現場における患者と看護師のコミュニケーションを時系列に記述、再構成した記録です。そこに、看護師の内省的な観察が加えられ、読むものは、その一つ一つの思考と言動の形跡を丹念に追っていくことが出来ます。今回は、それをご遺族の方にもお願いし、記入して頂きました。

 この一年間、物理的に断絶された状況によって、見えるはずのものが見えなくなり、そこにあるはずの思いが伝えられず、そうやってあるはずのものが、ないもののようにぽっかりとあいた空白として、他者との間に埋められない隔たりを生んできました。そして、いつの間にか、私たちはその隔たりの「こちら側」と「あちら側」の全く異なる世界を生き、その共通言語がどこにあるのかも分からないまま、気がつけば、本来守られるべ人が傷つき、誰かのことを悲しんだり、悼むことすら難しくなった社会を生きています。

 今、この緊急事態宣言の最中、ディスプレイの先にある殺伐とした空間から離れ、紙をめくり、見えないものの先にある風景を想像して欲しいと思います。ここにある記録は、日々伝えられる数値の先にある、一人ひとりの尊厳に向き合っている人々の言葉です。                            

                         

                                                                      二〇二一年八月 記録者  小原 一真

 

 

 

​サイアノタイプ プリント付きエディションについて

サイアノタイププリントサイズ:15cm x 10cm

支持体(プリント用紙)気包紙 U-FS​ ディープラフ 295kg

一枚一枚制作する手製のプリントです。

本体税込8800円(手製本+プリント)+日本全国送料一律300円(限定30セット)

サイアノタイプとは、日光の紫外線を利用した写真の古典技法の一つです。支持体に塗布されたサイアノ溶液は紫外線に反応し化学変化によって青く変色していきます。

「青写真」の語源となった技法でもあります。

 

今回、この技法を利用してプリントを行なったのは、今、この時の空気感を自分自身の経験・記憶とともにプリントとして残せるようなことは出来ないか。それらを含めて共有したいという思いがあったからです。秋晴れの日光を受けながら、このプリント制作は行われています。キンモクセイが香り、風を受けながら、しかし、それを全て以前のような心地よさとして受け入れきれない気持ちが残っています。緊急事態宣言が明け、これまでと変わらない日常を取り戻そうと社会が回っていく中で、これで良いのかなという不安な気持ちです。

2020年5月、初めて無症状者・軽症者療養施設を訪れた私は、新型コロナウイルスに感染した入所者が退所した後、その部屋の鍵が消毒されていく様子に目を引かれました。未知なるウイルスの全貌が定かではない中、それぞれの鍵は次亜鉛酸と日光の紫外線によって消毒されていました。鍵を載せ、液体を注がれた銀色のパレットには、真っ青な空の色が反射していました。強烈な酸を浴びた鍵は、その鍵の部屋番号を刻印したプレートが取れるほどに腐食していました。

 

私がその情景に引き付けられたのは、その鍵の様相が、感染者に対する社会的な差別によって、それぞれの個の様子が見えなくなっていくことに重なったからでした。強烈な酸で痛めつけられ、鍵のアイデンティティーとも言える番号すら見えなくなっていってしまう。馬鹿げた思考かもしれませんが、当時は今以上に感染者の存在が見えないものにされていて、その憤りも自分の感情に影響したのかもしれません。

 

その頃の私は、なんとしても数値ではなく、個の見えてくる表現を探そうと、撮影出来るものは何でも記録しようと考えていました。感染者が入所した部屋のほとんどを撮影し、同時にその部屋のドア、鍵も撮影しました。今回、サイアノタイプを用いてプリントした鍵は、その中の一枚です。

 

あれから、1年半がたち、未だに感染者も感染による死亡者も社会からは見えづらい存在のままです。顔を見えなくする「配慮」を行うことが当たり前の社会が作られ、守られるべき人たちを隠さなければいけないことを許容してしまった社会は、どこに向かっていくのだろうかと不安が募ります。

 

それでも、この現在進行形の災禍の中だからこそ、私たち自身によって変えていけることだってあるんだろうと思っています。冊子に納められた、最前線の人々が語る言葉、その一つ一つが、パンデミック下であっても諦めてはいけない大切なことについて思い出させてくれます。数値ではない、個の尊厳について。

二〇二一年十月 小原 一真

小原一真(おばらかずま)

1985年岩手県生まれ。大阪府在住。写真家、ジャーナリスト。スイス、フォトエージェンシーKEYSTONE-SDAパートナーフォトグラファー。ロンドン芸術大学フォトジャーナリズム修士課程修了。2012年、東日本大震災と福島第一原発・原発作業員を記録した写真集『RESET』(ラースミュラー出版/スイス)、2015年には太平洋戦争で被害を受けた子供たちの戦後を描いた「Silent Histories」(RM/スペイン)を発表。長期的視野からチェルノブイリ原子力発電所事故を記録した 『Exposure/Everlasting』(2015)では、世界報道写真賞をはじめ、国際的な賞を多数受賞した。2016年、フランスのFestival Photoreporterより助成を得て、ビキニ水爆実験で犠牲をおった漁師に焦点を当てた「Bikini Dairies」、2018年にはオランダ大使館より助成を得て、第二次世界大戦で日本軍によって犠牲を負った人々の戦後を描く「A story」を現在も進行中。災禍の中で見えなくなっていく個に焦点を当てた作品制作に精力的に取り組みながら、2020年には米ナショナルジオグラフィック協会より助成を受けて、コロナ禍の最前線で働く看護師・介護士による看取りの記録を続けている。本を媒体としやヴィジュアルストーリーテリングのワークショップをヨーロッパを中心に開催する他、国際的なBook Awardの審査員なども務める。写真集は米TIMES紙Best Photobook選出やParis-Photo Aperture photobook Awardショートリストなど海外で高い評価を得ている

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