「悼む」ということについて - チェルノブイリ原子力発電所事故から35年

今日、チェルノブイリ原子力発電所事故が起きてから35年を迎えます。ここで公開する写真は5年前にウクライナのスラブティチ市というところで撮られたものです。事故後、収束作業員が住む拠点として作られた町は、今でもその目的のために作業員とその家族が暮らしています。そして、毎年、4月26日になると、原発事故によって亡くなられた作業員たちを追悼するイベントが行われます。

2015年、チェルノブイリに関する撮影を始めた私は、それから1年と少し、毎月の様にスラブティチ市を訪れ、撮影を重ねました。大切な友人が出来、私にとって大切な場所の一つになりました。

追悼式のその日、友人の作業員が式典に参加しました。事故から30年以上経っても、そこには間違いなく悲しみがありました。涙を流しながら、花をたむける人々、それを見つける小さな子供たち。悲しみを共有し、悼むということの大切さを強く認識しました。

​2021年4月26日 小原一真

2015年4月26日の日記より

 

1986年4月26日午前1時、歴史上、最悪と言われる原子力災害がチェルノブイリ原子力発電所で起きた。約30万人が避難を強いられ、人々の故郷は「ゾーン」と呼ばれる立入禁止区域に変わった。

 

事故から29年後の2015年4月、僕は収束作業の為に亡くなった作業員を慰霊する式典を訪れた。この日はウクライナ各地で慰霊祭が行われる。僕は発電所から約50キロ東に位置するスラブティチ市で行われる式典に参加した。この町は事故後、避難区域となったプリピャチ市から避難してきた技術者とその家族の為に事故の翌年に建設が始まった。現在もチェルノブイリ原子力発電所の収束、廃炉作業に関わる作業員のほとんどがこの町の住人である。

 

夜11時、式典が始まった。町の中央広場の4分の1程のスペースには、参列を待つ人々が慰霊碑にまっすぐ目を向けたまま立っている。青と黄色の衣装をまとった子どもたちが、ろうそくを手に、碑のある一角へと一列に向かっていく。それに続く形で、白い防護服をまとった作業員も同じくローソクを手に、慰霊碑の前に等間隔で並んで行く。子どもたちが二手に分かれ、慰霊碑へと続く参列者の為の道を造り終えると、遺族、関係者が花束やろうそくを持って、子どもたちの間を通っていった。会話もままならない程の大爆音で流れる悲劇的なメロディーは式典が終わる1時間に渡って町中に鳴り響いていた。

 

この日の晩、カップルに出会った。パーシャとナレシュカである。パーシャの両親は事故前、チェルノブイリ原子力発電所建設の為にプリピャチ市へと移り住み、彼の長男ロマは、事故前にプリピャチで生まれた。パーシャは事故の翌年、避難先のキエフで生まれた。

家族は一度、キエフに避難を強いられた後、事故の3年後には収束作業を行う為にスラブティチ市へと移り住んだ。事故後、政府は、プリピャチ出身の避難者へキエフのアパートを提供し、避難者の中で働ける男性は、キエフからチェルノブイリ原子力発電所へと収束作業に向かった。スラブティチ市建設後は事故前から原発で働いていたプリピャチ出身の技術者が中心に新しい町へと移り住んだ。

 

ナレシュカの両親は事故後にソ連圏内のアルメニアから、ウクライナにスラブティチ市の建設の為に移り住んだ。現在、父親はチェルノブイリ原子力発電所の警備会社を営なんでいる。長男のナレックは父親とともにそこで働き、ナレシュカは原発で働く全作業員の放射線被爆量の管理を行うセクションで働く。一日中、作業員の線量データを打ち込む作業である。

 

爆発した4号機を除き、1号機から3号機は事故以降も運転を続けていた。最後に残った3号機が2000年に停止して以降、発電は行われていないが、現在、爆発した4号機の収束作業とともに1から3号機の廃炉作業が続く。一つの工程が終わるたびに少なくない住人が職を失う。街は今、廃炉に特化した産業の誘致を図ろうとしている。

 

式典には、事故直後の収束作業に携わった世代、その子供達の世代、そして、また次の世代が参加している。ポツリと飛び地のように作られたこの小さな町で、86年を起点にして起きた数々の死が悼まれている。

 

チェルノブイリ事故の取材を初めて一ヶ月以上が経過していた。その日、はじめて僕は、作業員の死を頭ではなく、体で感じた。何千、何万という数字や博物館の資料では説明しきれない、紛れも無い「死」を、参列者の立ち姿、その表情が伝えていた。

関連リンク

小原一真インタヴュー 原発事故がなかったら、私たちはこの街で生まれていない
小原一真のジャーナリズムが伝えるチェルノブイリ

https://imaonline.jp/articles/interview/20191205kazuma-obara/#page-1

Project: Everlasting

https://www.kazumaobara.com/everlasting